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「えーちゃん!えーちゃん!起きてやー!」
村山の起こす声で目が覚めた。
まだあたりは暗く数時間しか寝てないようだった。
「なんやねん!うっさいんじゃ!寝とんねん!」
「俺今思い出してんけど、明日空手の試合やねん!」
興奮状態から覚めた村山は家出したことの実感が湧いてきたのだろう。
また闇の中で一人で起きていることに恐怖もあったのだろう。目にはうっすら涙の後もあった。
明らかに空手の試合は口実でヘタレて家に帰りたくなったのは明白だった。
「お前空手の試合って!剣道が嫌で家出したんちゃうんか!?意味わからんぞ!」
「試合休んだらお母さんに怒られるねん!こんな怖いし寒いし!もういやや~!俺帰る!」
パニック気味の村山はそう言い、剣道の防具なんぞ放ったらかしで泣きながら住宅街の方へ駆け出して行った。
「ちょう待ってや!俺も一人とか無理やって!」
俺も結局ヘタレて村山を追い掛けて帰ることとなった。家までの距離はおそらく10キロ近かったがほぼノンストップで走りつづけた。
こうして俺達の初めて家出はわずか一日で幕を閉じた。
家に帰ってから、金剛力士像ばりの仁王立ちのオカンに顔が腫れるほどどつかれたの上に晩飯が抜かれた事は言うまでもない。
産まれたての赤ちゃんのケツの蒙古斑のように俺らはまだまだ青かった。
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