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「丁度追ってから逃げてる途中だったんです。」
「置屋の…かな?」
「そう。未だあの頃は剣の握り方も知らず,見せ掛けだけの脅しに刀を使っていました。」
私の掌を見せると,源さんは肩を竦めた。
そのようなことが十年にも満たないほどの前の話とは思えないほど豆は重ねて潰れ見るからに硬い。
手のひらには剣ダコ,指の間には筆ダコ。
ところどころあかぎれだって起こしている。
「この手も…まだ白かった。」
手を重ねて握りこむとポンポンとそれを叩かれる。
罪の意識にとらわれないように誘ってくれるのがわかる。新撰組に属している人間で未だ血に染めていない隊士がどれほどいるだろうか…。
「あいつを見掛けた時,直感でこの男ならなんとかなると思いました。」
「?」
「店から出てきたのを小道に引きずり込んで逢引きの真似事をさせたんです。」
そこまで言うと源さんは少しだけ目を見開いた。
「…男色の?」
「ふふっそうですよ?」
源さんは「そうかそうか。」と言いながら破顔した。私にも情報を共有してもらえないと意味がわからないのだが…。
首を傾げて見守っていると源さんはにこりと微笑む。
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