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「そうそう!いい線いってんぜ!!」
「ほんとですか!!」
ふと途中で足を止めた。どうやら餓鬼に皆で教えを授けているようだ。
少し離れた柱にもたれ、邪魔せぬようにそれを眺める。
「左之さん!もっかい!!見ててくださいね!!」
「おー。」
廊下に腰かける左之さん達は優しげなまなざしで餓鬼の相手をしている。
「えいっ!ってぇぇぇぇぃぃっ!!」
槍を構え、突き出してからそのまま薙ぎ払う。
すぐさま目をキラキラと輝かせながら今度はどうだったかとせっついていた…。
この光景の…塀を一枚隔てたその向こう側に戦の影が迫っているなどだれが想像できるだろうか。
「…ずいぶんイラついておられたな。」
「しょうがないさ。」
私が見ていることに気が付いたらしい一が場を壊さないようにとそっと語りかけてくる。
「……アイツは複数個所に陣を張りたがってるんだ。」
一は視線を落とした。どういうことか、察してくれているのだろう。
ほんの束の間、沈黙が訪れる。
餓鬼のはしゃぐような声と愛しむ様な皆の声がやけに響いた。
「…鉄は、皆のもとを離れる気はないようだ。」
「ふっ…結構なことだな。」
私の見つめる先に視線を送ると聞きもしないことを教えてくれた。
言わんとしていることは判ってはいるが素知らぬフリで通す。
一は、何か言いたげに私をじっと見つめ…
「そうだな。」とあきらめに似た溜息を吐いた。
その後トシは尾張藩より伏見退陣を求められているとさらに苦い顔をしながら帰ってきた。尾張藩は西軍。その要請に頷くことなどもちろん出来る筈がない。
新撰組から薩摩藩邸に間者を送り込み、その動向を探った。
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