第1章 彼の背中

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給湯室にはインスタントコーヒーもあるけど、やっぱり朝は豆に限る。 でも、さすがにミルはないので、棚に並んだいくつかのコーヒーの粉が入った缶を眺めて。 「今日は…、これにしよっ」 『ブルーマウンテン』と書かれた缶の蓋を開けると、コーヒーの香りが一瞬にして私の鼻に届く。 「いい匂い……」 深く深呼吸をしてひと時酔いしれてから、コーヒーメーカーへとセットする。 準備万端スイッチを入れようとした時。 「俺にも」 背後から聞き覚えのある声がして、私の心臓は飛び跳ねた。 恐る恐る振り返ると、後ろには壁に寄りかかり腕を組む加賀谷主任が。 いつから? いや、いつの間に? 「コ、コーヒーですか?」 どもってしまうのはしょうがない。不意打ちだもん。 「何の豆?」 「ブルーマウンテンです…」 「じゃ、それで」 私は返事はせずにこくんと頷いてから、コーヒーメーカーにもう一杯粉を足し、ようやくスイッチを入れた。
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