第1章 彼の背中

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珍しく主任が給湯室まできたものだから、変な期待をしてしまったけれど。 彼に何某かの企みがあったわけではない。 たまたま給湯室にいたのが私だったってだけ。 そして、その私に関心がなかったってだけ。 それだけなんだ。 きっと笛吹主任との会話だって、気にも留めていないと思う。 私は自分の淡い期待を恥じながら、1係へとたどり着く。 「遅くなりました、主任」 精いっぱい明るい声で笛吹主任へとコーヒーを差しだした。 席に着くと加賀谷主任の背中が見える。 なぜ、同じ課に配属になってしまったんだろう。 所属課なんてたくさんあるのに…。 もしも別の課だったら、もっと素直に接することができていたかもしれない。 彼を追いかけて大学へ行き、就職した私。 あと何年こんな思いを続けていくことになるのだろう──。 .
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