第1章 彼の背中

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笛吹主任は「やった」と弾けるような笑顔を見せた。 ……無邪気。少年のようだ。 そんな笑顔を見せられると、私も自然と顔が綻ぶ。 「高久さんは相変わらず出社が早いね」 「そうですか?電車の時間でこうなるだけなんですよ」 なんて、ウソ。 私がこの時間を選んで出社するのは、もちろん修ちゃんと会えるから。 その修ちゃんに、私たちの会話が聞こえてるのかもしれないと思うと、そわそわしてしまう。 エレベーターはこんな時に限ってなかなか来ないし。 「笛吹主任も早いですよね。あ、今日は遅いほうですか?」 いつもの笛吹主任なら、とっくに席についてる時間。 「僕も今日は乗継で1本遅れてね。でもこの時間だと高久さんと一緒になれるみたいだから、今度はこの時間にしようかな」 さらりと言ってのけるから。 私は返事をどう返していいのか困って笑って誤魔化す。 .
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