第1章 彼の背中

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まだ、人けの少ないロッカー室でやっと息を整える。 壁際に設置された洗面所に映し出された自分の顔は、やけに赤ら顔で驚いた。 「お礼、言うの忘れちゃった…」 掴まれた腕はそこだけ感覚を失っているかのようで。 「こんなことくらいで、この有様…」 両頬をペチッと叩いて情けない顔の自分に気合を入れた。 そして、自分のロッカーに戻って扉を開けると、周囲に人がいないことを確認する。 それからゆっくりブラウスのボタンに手をかけた。 実は、私が人より早く職場にくるには、もう一つ理由がある。 それは、私の右肩の後ろから背中にかけてできた大きな傷。 中学生の頃にできた傷。 ノースリーブでは肩の傷は隠れないから、夏は着る物を選ぶ。 だからプールの授業は嫌だった。 できれば人には見せたくない。 それで、人より早く職場にきて着替えをしている。 髪だって少しでも背中が隠れるようにって、ずっと伸ばしてて。 .
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