第1章 彼の背中

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私はそんなかおるさんの横で、コソコソと着替えをして。 「高久さん、昨日笛吹主任に誘われてなかった?」 「あ、あぁ。打ち上げですよ。新人指導が昨日で終わったので」 「ふ~ん。で、なんか進展とかあった?」 眠い目を擦りながら、さりげなく聞いてくる。 「な、何にもないです。あるわけないじゃないですか!」 「そう?」 「そうですよ。やだな~」 実際何もなかったわけで、ウソじゃない。 「じゃあさ…」 かおるさんは表情を変えずに顔をすーっと耳元に近づけ、 「加賀谷主任は?」 「えっ…?」 耳元にかかったかおるさんの息と突然飛び出した名前に、一瞬言葉が出なかった。 「あ、の…」 「な~んてね」 唖然とした私にニヤリと含み笑いをしてから、ロッカーをバタンと閉めて「お先に」と出ていった。
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