第1章 彼の背中

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聞こえてきたのは、入り口に寄りかかって腕組みしている本人の声で。 「やぁだぁ、主任たら盗み聞き?ってか、その袋何?」 まったく動じないかおるさんは、手にしている袋を摘みあげた。 「あー、コーヒー豆。いつも入れてもらってるからお礼にと思って」 「へぇ、珍しい…。 あっ、これマンデリンじゃないですかぁ! あたし、これにする!これ飲む!」 「倉沢…」 呆れた顔の修ちゃんは苦笑い。 私に視線を移して「俺にも入れて」と呟くと自分の席に戻っていった。 「あたし、これ好きなんだよねぇ。花ちゃんもこれでいい?」 「はい」 鼻歌まじりで機嫌よくコーヒーメーカーに粉をたっぷり入れてる。 私はそんなかおるさんに顔が綻ぶ。 なのに…。 「さっき」 「はい?」 「さっき、エレベーターで見ちゃった。ただならぬ雰囲気醸し出してたね」 .
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