第1章 彼の背中

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かおるさんは信用できるかもしれない、と妙な確信が生まれる。 それでも、あんな場面は誰かに見られたくない。 修ちゃんに迷惑がかかるのは一番嫌だし。 平静平静と呪文のように呟いて。 私はコーヒーを笛吹主任のデスクに置くと、ようやく落ち着いて自分の席に着いた。 隣では笛吹主任がカップに鼻を近づけ、しきりに香りを確認している。 「今日のは違う香りがする」 「わかります?」 「これ、何ていうやつ?」 「マンデリンだそうです。加賀谷主任からの頂き物なんです。いい香りですよね」 私も始めて飲んだけど、とてもいい香りでおいしい。 「加賀谷…?」 不思議そうな顔で、加賀谷主任の背中に目をやって。 「高久さんは何が一番好きなの?」 「なんでも好きですよ」 「しいて言うなら?」 「しいて言うなら…、やっぱりブルーマウンテンですか。高いですけどね」 実はコーヒーなんて詳しくないから、唯一知っている有名なモノを口に出してみる。
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