第1章 彼の背中

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「ブルーマウンテンね。僕も好きだな」 納得したのか頷きながらカップに口をつけている。 ふと見ると、デスクの上に≪回覧≫が。 「これ…」 「あー、研修旅行だって。今年は営業部と一緒みたいだね」 この会社では、いくつかの部署とまとまって研修旅行が行われる。 それが今年は営業部とらしい。 「温泉かぁ…」 「行くでしょ?初めてだし楽しいよ、きっと」 笛吹主任は≪回覧≫を手にとって旅行のルートを確認して。 ……温泉。 私のもっとも苦手としているモノ。 裸になって背中を晒さなきゃならないなんて、死ぬより嫌だ。 でも、修ちゃんと旅行。 家族がいないなんて初めてかも。 最近スーツ姿しか見てないし…。 いや、スーツもカッコいいんだけど、修ちゃんの私服……久しぶりに見たい。 「楽しそう…」 思わず声に出る。 「楽しいよ」 笛吹主任が私の独り言に返事をしたから我にかえった。 私は熱くなった自分の頬を隠すように両手で覆って。 最近見ることの少なくなった彼の私服を想像して、こっそり背中に目をやった──。 .
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