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【マスター僕の話に少々、お付き合い頂けませんか?】
恐る恐る出た僕の言葉は震えていた。
マスターは、冷徹なポーカーフェイスを崩さずに、翡翠の眼を嵌め込んだスワロウを型どる木彫りの振り子時計に眼を移す。
つられて僕も、それに視点を合わす。時計の針が9時半を示していた。
秒針の音が店内に心地よく響いている。
時間を確認したマスターは、次に店内の客席を見渡し、僕以外に埋まった二席に座る其々の客の様子を観察する。
店内の一番奥の席に座っていた僕から、比較的近い窓際の一席に向かい合うように座る老夫妻が涎を垂らしながら、一言も発せず黙々とラム肉のソテーに素手で食らいついていた。
それは、互いの愛情が羞恥を上回る程に深いものなのか、マスターの料理が理性を上回るほどに美味なのかは、僕には判別出来なかった。きっと二方なのかもしれない。
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