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『いつものやつを、頼む』
僕のオーダーを耳にした彼は、返答もせずに不敵な笑みを溢す。
スーツというより、影で纏われているといった方が相応しいマスターの姿は、もはや【闇の番人】にしか見えなかった。
何故僕が、悪夢そのものを具現化したような無気味で接客マナーも無知なこの店の常連客であり続けてるかと言うと、営業を放棄し、自虐的な接客をする彼に愛着さえも感じたことと、彼の腕が、悔しい程に僕の舌を絶対的に裏切らなかったからだ。
よって、店内もマスターの欠落した人間性に反し、客足も途絶えなかった。
この店を訪れ彼の料理を口にしたら最後。
はじめはこの店の外観や彼の接客対応、容貌に不信感を覚えて恐れおののき落胆的な言葉をぼやいていた客も、必ずといって良い程、彼の鷹の目を連想させる鋭く威圧的な眼差しに、有無を呑み込み捕らえられた袋の鼠へと一変した。
それは、彼等の味覚が、彼の無礼なまでの威圧感を、シェフとしての才能の【高圧】だと確信したからだ。
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