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「ねぇねぇ、彩香ってさ!サッカー部の植嶋君と付き合ってるんだよね!?」
それは、ある日の昼休みの事だった。
「う、うん、まぁ…」
どうしてこうも女子は情報の伝達が速いのだろうか。
いや、これはきっと女子が、とか男子が、とか関係ない。
なぜなら…。
「あーちゅわあぁぁぁあぁぁぁぁあぁぁぁん!!?聞いて聞いて!!俺さっき体育のバスケでめっちゃ点入れたよ!?サッカー部なのに!!すごくない!?」
突然教室のドアが物凄い勢いで開き、噂の張本人が現れた。
「たっくん…」
しょっちゅうこんな感じだからだ。
あたしは頭痛を感じ、思わず左手で額を押さえる。
「きゃー!彩香、来たよ!彼氏!!本当に植嶋君、彩香の事好きだよねー!!」
「う、うん…。そうだね…」
「あ、どーもどーも皆さん!あーちゃんがいつもお世話になってます!!」
「ちょ、たっくん!何を言ってるの!!」
「あはは、面白ーい!」
…もう。
少しでも気を抜けばすぐにこうだ。
だけど、意外なことにこんな無茶苦茶なたっくんでも、周りからの評判は悪くない。
勉強はまったくできないけど、まぁ運動神経はいいし。
それに見た目も悠紀には敵わないけど悪くない。
いわゆる出来の悪い子ほど可愛く見える、ってやつなのかな。
「おい、拓也。何やってんだよ。早く行こうぜ」
ふと気が付くとたっくんが勢いよくあけた扉にもたれかかるようにして悠紀が立っていた。
「キャー!!松下君も来てる!!今日はラッキーだね!!」
「ラッキーって…あたしはこの二人をよく見てるからなぁ」
そう言いながらも、たっくんよりも扉の近くにいる悠紀へと視線を向ける。
かっこよくて優しくて勉強もできて運動もできて。
そして愛想もよくって誰にでも平等に接する。
こんな完璧人間が存在して本当にいいのだろうか。
あたしは、ずっと悠紀のことが好きだった。
だけど、それは少し前に叶わぬ恋となった。
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