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「あれ?――リーダーどうしたの?」
颯君に直接手渡してその場であむあむを読ませる、ってやり方を提案してくれてたアイダちゃんから、さっき楽屋を出る時に『頑張れ』って応援してもらってたのに。
「…ダメだった」
「ええ!?――渡せなかったの?」
「渡せたけど…、ちょっとタイミングが悪かった」
「そっか…」
「――ゴメンなアイダちゃん」
失敗して呆気なく戻ってきた俺は。一時の怒りはしぼむように納まって。
代わりに何だかわからない不安と、悲しさにまた襲われた。
みるみる瞼と頬が熱くなって。
「――颯君さ。ページ捲るの、すげー躊躇ってたんだ。きっと見てくれてない…」
ヤバい!!
独りのときじゃないのにこんな状態になるなんて。しかも今仕事中だぞ…。
「リーダー!?」
慌てて鏡の前の椅子から立ち上がったアイダちゃんは、立ち尽くしてる俺に近づいてきて。
そのままぎゅう、って抱きしめてきた。
「――あぁもう…アイダちゃんでいいから、颯君になってくれよ」
肩の高さも、体つきも、つけてる香水だって全然違うのに。
こんな風に束縛される心地よさを忘れてたんだなあ。
訳わかんないお願いを颯君以外の誰かにするしかないなんて、いよいよ俺ヤバいかもしれない。「ゴメン、それは無理だけど…」
気がすむまでこうしててあげるからね、って。優しくしてくれるのに甘えて。
「有難うアイダちゃん。――こうしてもらってるだけで少し落ち着いた…」
「アハハ。俺の胸で良ければ貸してあげるから何時でもおいで?」
よしよし、なんて頭を撫でられながら、あやすように体をゆらゆらと揺らされた。
涙が引くまで思う存分アイダちゃんの肩を借りてたら。ノックの音がして。
「もうリハ始まるぞ――って、何やってるんだお前等」
ドアを開けたら、部屋の真ん中で抱き合ってる俺達を見たルンが。呆れたように声をかけてくる。
「颯ちゃんがリーダーの事泣かせたから、慰めてたの」
「うん、慰めてもらってるの」
アイダちゃんから離れないままで俺も答える。
「何でアイダさんなんだよ。――俺だっていいだろ?」
ほら、なんて。何処まで本気なのか、ルンが腕を広げて待ってるから。
「――あはは…。アリガトな?じゃあ、次泣きたい時にお前が居たら。お願いするよ」
やっとアイダちゃんから離れて、すれ違いざまにルンの肩を叩く。
「リハ行くぞ」
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