キラーチューン(颯×サトリ)

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 あの6月半ばの『あむあむ手渡し事件』の日が一番の緊張のピークだったかもしれない。 結局サトリ君から貰ったあのあむあむも自分の家に持って帰ったにも関わらず、表紙以上捲って進むことはできなくて。今は本棚に、自分でママゾンで買ったのとと2冊並べて収納してある。 学校イベントが終了して、ドラマが終わったサトリ君も落ち着くかと思いきや。 7月入った途端俺はロンドン出発直前の選手の取材や特別番組の撮り。サトリ君はアメリカに飛んで世界一の夢のテーマパークの取材してみたり。24Hの関連番組のコンテンツ撮りだって始まったから。 サトリ君と顔を合わせられる日がドラマ撮りが続いたこの3か月よりさらに少なくなった気がする。 そんな中で久々に二人だけ…と言ってもゲストが居るけれど。例の同居部屋コーナーの撮りの機会を、俺は本当に楽しみにしてた。 内容は「夏を満喫する」ってコンセプト。 並んで吊るされてた今夜の衣装を見た俺は「よし!!」なんて両手を挙げてガッツポーズ。 艶のある紺色に染められた、小千谷縮の夏仕立ての着物。だ。 コレを着てるサトリ君の姿を想像するだけで…。っていうか。 二人きりだったら理性なんか吹っ飛んで絶対に手を掛けるに違いない。 こーやって…。両手で襟をつかんで寛げてみたり。いや…肩から腕まで一気に剥くのもあり? なーんてね…。 衣桁に掛けられた「小野さん用」タグのついた、紺色の小千谷縮の着物の襟をがっちり手で掴んで色々弄ってるトコロを。 「オハヨーございまぁ…――す??―――颯君?」 ノックすら聞こえないほどまた独りであっちの世界に行ってしまっていた俺は、一番見られたらダメな相手に目撃されてしまった。 「――何してんだ?」 「あ…!!いや今日の衣装って…――着物なんだって!!ほら、俺なんかどう見ても「弟子が着る浴衣」て感じなのに!サトリ君のって「お師匠様の良いお着物」みたいで、差がありすぎるなぁ…なんて」 ズルいよなあ、なんて笑いながら。掴んでた襟をそれとなく手放した。 苦しい言い訳過ぎるぞ俺!!と、心の中では髪の毛を両手で掻き毟ってるけど。隣に立ったサトリ君は。 「ふぅ…ん」 俺着方解んないのに…なんて、縮の生地の感触を手で確かめてる。 「着付けはスタイリストがやってくれるんでしょ?」 「そっか…」 自分で着られたらいいのになあ、って聞こえたのは。俺の気のせい?
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