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とにかく、ココじゃアレだから…ね?――とか、口の中でごにょごにょ言いながら、颯君は抱きついてた俺の両肩掴んで引きはがした。
「あれ…サトリ君。――着物…?」
暗がりで見下ろしてきて、やっと何時もと様子が違う事に気づいたみたいだ。
「うん。――こないだの同居部屋で着せてもらったスタイリストさんに、紹介してもらった」
選んだ紺色の絽の着物は透ける素材。下に重ねるものが凄く大事で。
白い糸で背中に大きく鳳凰の刺繍が入ってる長襦袢を選んで着込んだら。
絽の着物越しに見ると鳳凰が飛んでるみたいに浮かび上がって見えてキレイなんだよ。
――てこんな暗いところじゃ解らないか。
颯君の腕の中を離れて。裾が肌蹴ないように歩幅に注意しながら小走りでリビングに駆け込む。
――とにかくあの人の好きそうな萌えをガンガン放り込んで行けばいいんですよ――
あの日電話で言ってたニノの言葉が脳裏を過る。
――颯ちゃんはね。顔や口では真面目を装ってますけど、頭ん中は相当、欲望が渦巻いてますからね?――
アナタみたいに思ったコト顔や言葉に直ぐ出す人じゃないですから。
あの人が色々ダメって言うのは、貴方に言ってるんじゃなくて、自分に必死に言い聞かせてるんです。
颯ちゃんが必死に守って見せようとしない箱の中身をね、ぶっ壊して全部ばらまいちゃえ。
――なんて。
どうしてニノの方が颯君の事解ってるんだよ。って不満はあるけど。
こうなったら、思いつく限りの颯君の好きそうなおもてなしをこれでもかとお見舞いして。
ニノが言ってる「ハコ」ってヤツを、叩き壊してやるよ。と心に決めながら、
両手の指先で両袖口を掴んで、袖を広げながら出来る限り可愛く振り返る。
「――どう、颯君?」
遅れてリビングの入口に立った颯君は俺の問いかけに。
「あ…――うん、凄く、似合ってる」
目いっぱい可愛く笑ったつもりだったのに、反応薄くて少しへこむ。
「――って言うか」
どうしたのこの部屋!と、変わり果てたリビングに驚いた颯君は、中に入って来ようとしないから。
痺れを切らした俺は、迎えに行って颯君の手首掴んで、中に引きずり込んだ。
「夏と言えば、――なーんだ」
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