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『好きになったきっかけが何だったか覚えてない』
なんてもし俺が言ったら。きっとアイダさんは怒るんだろう。
多分始まりは些細な事で。俺の中で少しずつ少しずつ好きの気持ちが積もって行った結果なんだと思う。
きっかけがぼんやりしてるなら、せめてアイダさんの何処が好きなのかははっきりさせないといけないのか。
『――そんなコト言ったって、結局ぼんやり何となくいろんなトコロが好きだ』
なんてもし俺が言ったら。きっとアイダさんは号泣するんだろう。
――俺はそんなコトばっかり考えながら。今もアイダさんの隣に立ってる。
「ねールン君。ペッパーミルってある?」
ソムリエ用のエプロンをぎゅ、って腰にタイトに巻きつけてベルトを絞ったアイダさんは、キッチンの至る所の引出を開け始めた。
「そこじゃなくてシンクの上の扉…――もうひとつ左。中にあるだろ?銀色の…筒型してる…」
「コレ?」
長い腕を伸ばして、ひょい、って掴んだペッパーミルを見て。
「凄ーい、電動式だ!!何コレ、ライト付き?面白い!!」
何見ても素直に喜ぶアイダさん。
「いいから。壊すなよ?」
今日は俺の家で、スパイスからキーマカレーを作って、ナンも作って食べよう、という話になった。
カレー係のアイダさんは、
「ガラムマサラでしょー?クミンでしょー?ターメリックでしょー?」
今度は紀伊国屋の袋からいちいち嬉しそうにスパイスの瓶を取り出してテーブルに並べてる。
「何か…ご機嫌だな?アイダさん」
「え?なんで?――俺…フツーだよ?」
「ゴメン間違えた…ご機嫌じゃなくて。オメデタイんだな?」
「ねー。ルン君それ俺の事、バカにしてるでしょ?」
「俺はバカをバカにするなんて、追い打ちを掛けるようなことはしないから。まあ安心しろって」
「やっぱりバカにしてるじゃん!!」
いちいち俺のツッコみに反応するのが面白い。
アイダさんの魅力はまず何て言っても。
――見ていて飽きない。
これに尽きる。
アイダさんの基本行動は予想外で。
アイダさんの辞書には、颯君の大好きな『予定調和』の項目は無い。
昔はアイダさんの突拍子の無さに正直イラッとさせられることもあったけど、今はむしろそれが無いと物足りなく感じるようになってしまった。
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