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「まさか、愛佳も先生のことを好きになるなんて…思いませんでした」
肩を落として唇を尖らせながら、缶ジュースのタブに指をかける。
隣で、有沙さんがぼんやりと空を見つめつぶやく。
「そーだよね…しのちゃんにとっては、ひーちゃんは親友だもん。親友と同じ人を好きになるって、ちょっと悲しいよね」
「…さっきから聞き流してましたけど、しのちゃんって東雲のしのですか?」
「?…今更そんなこと聞く?当たり前だよ。それ以外はなんだっていうの?」
きょとんと首を傾ける有沙さん。
私は呆れ顔を浮かべた。
「…でも、本当に有沙さんの言う通りです。」
視線を落とし、サンダルを履いたつま先を見つめる。
「青葉先生って、何なんでしょう」
「……え?それは…どういう質問と受け取ればいいの?」
「んー…なんていうか、こう…惹かれる、とでも言えばいいのかな。色気があるんですよ先生。あの優しい瞳で見つめられたら、体中が痺れて動けなくなるんです。まるで薬みたいに。」
自分で問いかけた質問に、自分で答える。
静かに聞いていた有沙さんは、ふふと笑った。
「でもさ、同じ人を好きになるっていうことはつまり…」
「?」
「仲良いってことだよね。」
度肝を抜かれた。
「成る程、そういう考え方もできますね」
「そうだよ。」
「そうですね。」
「うん。」
思わず顔が綻ぶ。
「そう思うと、気が楽になります。いつまでも愛佳と私は、仲良くいられる。そんな気がします。」
「ん、違う違う。そんな気がするじゃないよ。」
「え?」
有沙さんはにこりと笑いかける。
「いつまでもしのちゃんとひーちゃんは、仲良くいられる。そうなるんだよ。」
思わず目が丸くなる。
そして、優しく細まった。
「…あー、有沙さんには、驚かされてばっかりです。」
「あはは、よく言われるよ」
あっけらかんとした笑いが、空に響いた。
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