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「…はぁ…」
細く開いた口からは、ため息しか出ない。
それほど、俺は困り果てていた。
海の家の横にあるベンチで、額を押さえる。それは、困った時の癖だった。
「まったく、色男は困るねー?涼介ちゃーん」
横から、俺の気持ちとは真逆の、明るい声が聞こえた。
そちらを向くと、にんまりと笑みを浮かべた京が立っていた。
「…人がこんなに困ってるっていうのに、なんだよその顔は」
「他人の不幸は蜜の味♪」
「最低だな、お前」
じとっと目を吊り上げて睨むが、京は知らんぷりしてどっかりと俺の横に座った。
「女子高生二人に同時に思いを寄せられるってのは、一体どーゆー気持ちなの?」
「全く嬉しくない。」
顔をしかめてきっぱり即答したが、はっと思い出したかのように慌てて弁解した。
「あ、いやいや、東雲さんの気持ちは死ぬほど嬉しいけどね。それに平山さんに想われるのも、邪魔だって思ってる訳じゃない。ただ…」
「ただ?」
「困るんだ」
眉毛を八の字に下げる。
「確かに俺は、東雲さん以外の生徒には興味が無いよ。だから平山さんの気持ちに答えてやることができない。でもさ、それだけじゃないんだよ。」
俺はそこで一度言葉を切った。
「東雲さんの気持ちが変わらないか、心配なんだ。」
京は黙って聞いている。
「俺が平山さんに告白された事によって、東雲さんは親友の為に身を引くかもしれない。」
「身を引くまでとは行かなくても、気まずくなって自然消滅になるかもしれない。」
「それに東雲さんが、やっとできた本当の親友から引き離されるなんてことがあったら、俺は耐えられない。」
表情がどんどん曇って行く。
その時、今まで無言で聞いていた京が、静かに口を開いた。
「自意識過剰」
「え、ええ!?」
京の言った意味が分からない。
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