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日が高くのぼる頃、すこし寝苦しくなって目がさめた。
ほんのり湿ったまぶたと身体を天井に見せれば、手と足が畳にじんわりと沈んでいく。それが何だかもどかしくて、逆らうように私は起き上がった。
「まぁちゃん、朝ご飯。そうめんよ」
ひとつあくびをすると、寝ていた座敷からふたつ隣の台所にいるおばさんの声が聞こえてきた。
「…わたし、そうめんきらい おばさんこえでかい」
小さな声で反抗しつつも、足元でぐるぐるになったタオルケットに顔をうずくめる。
馴れない匂い、お母さんの匂いがしない。
押し入れの埃っぽい匂いが懐かしいのだけど、嫌いとも好きとも言えない。この家にはそんな匂いがあふれていて、気持ちさえも同じようになってしまう。
それは一緒に来るはずだったお母さんが居ないことを改めて認識させた。
「ごはん……」
けれど空腹には負けたようで、静かにタオルケット畳むと私は立ち上がった。
足を運ぶごとにきしきしと音をたてる縁側を歩きながら、目をこする。そして、鳥の巣のようになっているであろう髪の毛を手で整えていると。
「……ん?」
縁側沿いに並んでいるすこし黄ばんだ障子にひとつ穴があいているのを見つけた。ほんの少し覗いてみたら、つんとハッカの匂いとお線香の匂いが鼻についた。
「おばあちゃん…」
穴の中ではおばあちゃんがお仏壇に向かって手を合わせていた。しわしわになった両手を必死に擦り合わせて背中をだんごむし差ながらに丸くする。
「しあわせでありますように」
とたんに穴の向こうがすとんと暗くなった気がした。
まばたきをして、まつげが障子に触れた音に私は肩を揺らした。私はおばあちゃんに声をかけることなく台所へと急いで向かった。
「もっとたくさん食べないと、大きくなれないわよ」
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