椿のかげろう

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 そんなことを言いながら、おばさんはネギをたっぷり、そうめんにふりかける。 「まぁちゃん、おネギいる?」 「……いらない」  にこにことねぎが盛られた小皿を差し出してくるおばさんに、私はそうめんをすすりながら首をふった。  透明なガラス皿にのせられたそうめんは渦を巻いていて綺麗なのだと思うけど、ざわっと背中が震えた。  いつだったか、小さい頃ひとりでそうめんを作った時があった。煮え立ったお湯に束をそっと入れた私は、ふにゃふにゃとしなってゆく白い棒を一心に見つめしまったのだ。あれだけ母に菜ばしでかき回しなさいと言われていたのに私は見事に好奇心に負けた。たっぷり入れたはずのお湯もいつの間にか消えていて、行き場を失ったそうめんは鍋底へと貼りついたのだった。気付いたときには既に遅く、三人前のそうめんは一人前よりも少なくなってしまった。そして私はお母さんに怒られて鍋をごしごしと洗うことになった。きちんと並んでいる白い渦を鍋底で見つけてほんの一瞬、綺麗だと思った。けれど金束子で鍋をこすり食い込んだそれをみて ぎゃあ と一言叫んだのを今でも覚えている。  今は別に食べられない訳じゃないけれど、お母さんの怒った声が目蓋に掠めるから苦手な食べ物になった。 「今日はそうめんかい」  ひっそりと激闘を口の中で続けていたら、おばあちゃんが台所へと入ってきた。 「はいどうぞ、お義母さん」  即座におばさんが私の横へ、ツユの入ったお皿と箸をおく。おばあちゃんは静かに椅子を引いてそこに座った。 「みっともないねえ、シャキッとしなさい」 「んっ!?……ぐ」  いきなりおばあちゃんが私の背中を平手で叩くものだから、頬張っていたそうめんが吹き出そうになりとっさに飲み込んだ。 「全く……若いんだから胸をはりな」 「……」 「まあまあ、お義母さんねぎいります?」 「頂くよ」  ねぎをツユに浮かべるとおばあちゃんはふっと笑った。 「これは仲谷さんちのねぎだねぇ」 「よくわかりましたね」 「ここに来てからずっとお世話になっているんだ分からないなんて失礼だろう」 「そうですよね」
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