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私はその時、誰かに望む幸福をはじめて綺麗だと思った。
「真亜子」
ふわりと線香のにおいが近づいた。
「さあ行くよ、その前に靴を履いてきなさい」
「あ、」
ざりざりと伝わる感覚に今更気づいて振り切るように庭を走り抜けた。
玄関に着いてお気に入りのスニーカーを履く、お気に入りと言ってもここにはそれしか持ってきていない。裸足で履くのには少し気がひけたけど、真亜子早くしなとおばあちゃんが急かすので適当に靴ひもを結んで手招くおばあちゃんの元へ歩き出した。
「そんなん履いていくのかい」
横について立ち止まるとおばあちゃんは眉をひそめ怪訝そうに私の足元をみた。
確かにボロボロで紐を適当に結んできたからぐちゃっとしていて格好が悪い。
「べつにいいじゃん、それよりどこに行くの?」
「仲谷さんの家さ、野菜を貰おうと思ってね」
「ネギの家の?」
「ふふ、そうだよ」
今度は頬を緩めて遠くをみる。
おばあちゃんは不思議な人だと思う。気品があったり、お茶目だったり、すごく優しい、ここに来てまだ四日くらいだけど素敵な人だとも思う。たった四日で私が分かるくらいなんだから、きっとずっと一緒に住めば大好きになる気がする。
たまに嫌なときもあるけどあんまり気にしないのが一番だ。
転々とならぶ家並みを抜けながら、おばあちゃんといろんな話をする。何でもない話しに相づちをうっては笑って、道の真ん中を歩くなと叱られる。道端に生えている花を見つけては名前を教えてもらう。理不尽な文句さえ笑って受け止めてくれた。それはもどかしくてくすぐったかった。何となくだけど気付いた。お母さんと似ているからかも知れないけどそれだけで少し足が浮く気分になる。
「おばあちゃんはさ、誰に幸せになって欲しいの?」
じりじりと押し寄せていた疑問を小石とともに軽く蹴り上げた。
「さあねえ」
「早苗さんとか?」
「どうしてそう思うんだい?」
「うーん結婚してないし」
「それで?」
「あ、でも結婚だけが幸せじゃないよね」
「一丁前のことを言うんだねえ。ああ、こっちを右だよ」
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