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「うん」
角を曲がると雑木林が続いていて暗い陰が道に落ちていた。
「仲谷さんちって遠いの?」
「家自体は近いけど、なにより畑が広いから家に行ってもいないことの方が多いんだよ。きっといまはトウモロコシでも採っているんじゃないかね」
「ふーん、仲谷さんと会ったことないや」
「まあ会ったのは生まれたばかりの時だったからね、それからだったかな美香子がこっちに来なくなったのは」
「あ」
コツンと蹴った小石は草むらへと飛び込んでいった。
「残念だったねえ、ずいぶん長く続いてたのに」
「うん、まあいいや」
そう言うとまた歩き始める。ついて行こうとしだが、足の裏に残っていた砂がスニーカーの中でもがくので片足でを脱ぎひっくり返した。
「おばあちゃんーまってて」
「待っているよ」
おばあちゃんは少し雑木林から抜けた明るい道で立ち止まっていた。零れる光に私は目を細めながら、おばあちゃんの背中を見つめる。
「この靴ね、お父さんに買って貰ったの、けれど少し大きくて擦れするんだ。いたいの」
「大丈夫さ、直ぐにぴったりになってしまうから」
「お母さんもそう言ってた。真亜子はまだ子供なんだからすぐに大きくなって、履けなくるわ。そしたら、また大きいのを買いましょうって」
砂を中から追い出し、踵を潰さないようにそっと足を入れた。
「でもね、お父さんと約束したから。また靴を買ってくれるんだって。私が大きくなったら」
木漏れ日が注す私の頭に大きな手がふわりと乗っかった様な気がして、私も手を重ねた。けど尺取り虫がうねうねと手にくっついてきた。
「わあ!おばあちゃん!尺取り虫だ!」
人差し指にすっと乗せて、私はおばあちゃんの元に走った。
「みてみて、かわいい!」
「そうだねえ」
えっさほいさと聞こえるくらいに、尺取り虫は私の指先まで登ってきた。
「おお、はやいねえ」
「真亜子、早く行かないと日が暮れてしまうよ」
「はーい、じゃあね」
私は尺取り虫をそっと近くの葉っぱに下ろして、少し早くなったおばあちゃんの背を追いかけた。
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