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雑木林を過ぎ、点々とある大きな家を眺め、その先の長いでこぼこ道を抜けたらトウモロコシ畑に突き当たった。
「ここ仲谷さんの畑なの?」
「ああ、そうだよ。家はあっちの赤い屋根のだ」
おばあちゃんが指を指した向こうには、トウモロコシの先っぽに埋もれた赤い屋根が見えていた。
「わあ、畑ひろいね…」
「真亜子、仲谷さんを呼んできておくれ。私は木の木陰で一休みしているから」
「うー、呼ぶっていうよりも捜すじゃないかな」
「そうかもねえ、頼んだよ」
おばあちゃんは言ったとおり、木陰に座って手拭いで汗を拭いている。私も汗が滲んでいたけれど、シャツの袖で汗を拭って仲谷さんを探しに向かった。
トウモロコシの葉をかき分けながら、進んでいくと虫の羽音が耳元で聞こえた。
「きゃ」
思わず小さく声を出してうずくまると、茎が並ぶ視界の開けた先に誰かの足があった。
きっと仲谷さんだと思って、低姿勢のままその人に向かっていく。
「仲谷さん!」
「わっ!」
ぴょんと弾むように立ち上がると仲谷さんは太い声を出した。
「な、かたにさん……ですか?」
声をかけたのはいいももの、想像してた仲谷さんよりとても若い男の人だった。
「びっくりしたなぁ……あ、もしかして君。じいさん捜してるの?」
ふわりと笑ったその人は私の手を引いて、こっちだよと言った。
「あの、仲谷さんじゃないんですか?」
「はは、一応僕は仲谷だけど。僕は君の捜してる仲谷さんの孫だよ」
手を引きながら前を進むその人は、私にトウモロコシの葉っぱが当たらないように手で大きく分けてくれている。黒い髪に当たる光が綺麗に揃えられたうなじにひとつつたっていく。
「あ、ねえ。お兄さ……いでっ」
「じいさん!お客さん!」
いきなりお兄さんが止まったので、とすんと背中に鼻が当たった。
「わるい、大丈夫?」
「……だいじょうぶ」
鼻をさすりながらそう言えば、お兄さんはまたふわりと笑って私の手を離した。
どうやら畑を抜けたらしく、赤い屋根の少しぼろい家の庭に出ていた。
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