序章・謎の男

3/11
前へ
/44ページ
次へ
桜が咲き誇る道を歩きながら、花びらがはらはら落ちるのをぼんやり眺める。 4月半ばだけどまだまだひやりとした風が花びらを散らしていく。 私は知らず歩幅を広げ、家路を急いだ。 桜を見ると彼を思い出してしまい、いつも胸がきゅっとなってしまう。 家に着くなり自分の部屋へ向かおうとした私を妹が呼び止める。 「あれ、早かったね。デートじゃなかったっけ?」 居間から顔だけ除かせ問う妹に、一瞬足が止まる。 直ぐに気を取り直して去ろうとしたが、 「はぁ~、またフラれたんだ。いい加減現実を見なって」 ため息混じりな妹の言葉が突き刺さるが、先の別れと同様気にならない。 私は聞こえないフリをして、自室のドアを閉めた。 ベッドにバッグを放り、ある物を大事に取り出す。 ウォークマンを差し込み電源を入れると、気分はぐんと晴れやかになる。 やがて、張りがあるけど柔らかい声音の歌手が歌うオープニング曲が流れ、ゲーム開始画面が映った。 私はベッドに横たわると「続きから始める」を迷わずタッチペンでタッチする。 すると昨日セーブした場面がパッと映り、片思い中の彼が現れた。 乙女ゲーム・薄桜鬼。 主人公の一人、斎藤一。 それが今、私が片思いしている人の名だ。
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!

51人が本棚に入れています
本棚に追加