4/5
前へ
/241ページ
次へ
既に8時間以上が過ぎていた。 何時間もこんな辛い思いをして、志織は大丈夫なのか不安で仕方が無かった。 窓の外を見ると満月が浮かんでいた。 月を見つけた時、俺は悩む事も、美月の事も忘れ、ただただ志織と赤ん坊の無事を祈っていた事に気がついた。 いつも心の中で感じていた美月を、忘れていた自分に驚く。 驚く暇無く、分娩室から聞こえる志織の声が、大きくなった。 …美月! 俺は願った。 …美月、 どうか無事に産まれるよう… どうか2人を守って… 美月、志織を助けて! 「ほ…ん…ぎゃ…」 一瞬、皆が息を呑む音が聞こえた気がした。 「産まれた!」 義父がソファから立ち上がり言った言葉をキッカケに、皆が歓声をあげた。 「ほんぎゃっ…ほんぎゃっ…」 赤ん坊の声がどんどん力を増している。 俺は安堵したせいか、身体から力が抜け、窓の淵に手を掛けた。 放心している俺の肩が、父親達に交互に叩かれた。 「おめでとうございます。2930gの女の子です。母子共に健康ですよ。」 分娩室のドアが開き、医師がマスク越しに笑顔で言った。 普段落ち着いている親達が、子供の様に喜んでいる光景が眩しくて、俺の胸は熱くなった。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1367人が本棚に入れています
本棚に追加