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既に8時間以上が過ぎていた。
何時間もこんな辛い思いをして、志織は大丈夫なのか不安で仕方が無かった。
窓の外を見ると満月が浮かんでいた。
月を見つけた時、俺は悩む事も、美月の事も忘れ、ただただ志織と赤ん坊の無事を祈っていた事に気がついた。
いつも心の中で感じていた美月を、忘れていた自分に驚く。
驚く暇無く、分娩室から聞こえる志織の声が、大きくなった。
…美月!
俺は願った。
…美月、
どうか無事に産まれるよう…
どうか2人を守って…
美月、志織を助けて!
「ほ…ん…ぎゃ…」
一瞬、皆が息を呑む音が聞こえた気がした。
「産まれた!」
義父がソファから立ち上がり言った言葉をキッカケに、皆が歓声をあげた。
「ほんぎゃっ…ほんぎゃっ…」
赤ん坊の声がどんどん力を増している。
俺は安堵したせいか、身体から力が抜け、窓の淵に手を掛けた。
放心している俺の肩が、父親達に交互に叩かれた。
「おめでとうございます。2930gの女の子です。母子共に健康ですよ。」
分娩室のドアが開き、医師がマスク越しに笑顔で言った。
普段落ち着いている親達が、子供の様に喜んでいる光景が眩しくて、俺の胸は熱くなった。
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