もう一つのエピローグ

2/7
前へ
/241ページ
次へ
「っ!」 声にならない声が聞こえて振り返ると、美生を覗き込むように、ベビーベッドの手摺りに捕まる岡崎の様子がおかしい。 「…岡崎?」 車の中から、出るのに3分。 手を差し出したが、かえって痛い思いをしそうだと、遠慮がちに断られた。 岡崎の荷物とスーツの上着を持って、エレベーターの前まで歩く。 振り返ると、直立不動でちょこちょこ歩く岡崎の様子に、思わず笑いが込み上げるが、なんとか耐えた。 蒸し暑いこの季節に、コルセットを巻いているせいか、岡崎の顔からは汗が噴き出ていた。 微妙な振動や動きだけでも、激痛を感じるようで、汗を拭く様子さえぎこちない。 目の前で笑う訳にはいかないなと気を引き締めた。 エレベーターに乗り込むと、ホッとしたのか、岡崎が情けない顔で言った。 「ご迷惑をおかけして…本当に申し訳ありません。」 「…迷惑じゃないから、気にするな。」 ベビーベッドの美生を覗き込もうと屈んだ瞬間、ギックリ腰にみまわれた岡崎。 病院に連れて行くと、全治1週間と診断された。
/241ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1367人が本棚に入れています
本棚に追加