もう一つのエピローグ

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岡崎の母親は、靴を脱ぐのもやっとの岡崎を玄関に放置したまま、俺をリビングに招き入れた。 「お久しぶりです。…あの、岡崎は 「いいのいいの。 下手に手を貸されると、かえって痛いものなのよ。」 彼女は俺に椅子に座る様に言うと、キッチンに行き冷蔵庫を開けた。 初めて上がった岡崎のマンション。 アジアンテイストの家具と壁の絵、そして沢山の観葉植物がバランス良く置かれ、その中を窓から入ってくる風が吹き抜ける。 窓側の中央にイーゼルが置かれ、大きなキャンパスに掛けられた白い布が、風で揺れていた。 アトリエを兼ねたリビングは、都会の真ん中にいる事を忘れさせてくれる癒しの空間になっていた。 岡崎は早くに妻を亡くし、画家の母親と一緒に暮らしながら一人娘を育て上げた。 母親は、70歳を過ぎた今も人気の現役のアーティストだったが、芸術家に有りがちな気難しさは無く、明るくて気取ら無い、よく喋る人だった。 2年前に岡崎の娘の結婚式で会ったきりだったが、ドアが空いた瞬間、満面の笑顔と溢れる生命力で俺を迎えてくれた。 「絵の具臭くてごめんなさいね。」 岡崎がリビングに入って来たと同時に、キッチンから元気な声が聞こえる。 「いえ、大丈夫です。」 俺は椅子の背に岡崎の上着を掛け荷物を置くと、岡崎の為に椅子を引いた。 「…申し訳ありません。」 座る事が恐怖なのか、岡崎の顔が引きつっていた。
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