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「…覚えててくれたの?」
涙をこぼしながら言う瑞希に俺は頷いた。
「でも…あれが瑞希だったのは気づかなかった…」
「そりゃそうよ。
だって桔平はまだ5歳だったもの。
だけどね、私はずっと5歳の桔平を忘れてなかった。
あの時の桔平の優しさが本当に嬉しかったから…
この街で働き出して、噂で桔平の話を聞いた時も、まだ桔平があの時の男の子だなんて知らなかったわ。
でも瑛梨香と一緒に出勤した時に、街で女の子の肩を抱いて歩く桔平とすれ違ったの。
瑛梨香が
『あれが噂の倉橋桔平よ。
今、私が一番欲しいモノ。
誰も愛さないって話だけど、絶対私の事を愛させてみせるわ』
って言ってて…
桔平をじっと見た時に私の中に違和感を感じたの。
そしてあの雪の夜…
倒れてる桔平を見つけて…
私は気づいたの…
あの時の男の子が桔平だって」
じっと俺を見つめる瑞希の瞳がとても温かく俺を包み込む。
「桔平は誰も愛さないって聞いてたけど…
私だけは知ってたわ…
ただ…それを忘れてしまっているだけで、本当は愛情に溢れてる人だって」
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