命の欠片

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一緒に朝食を食べて後片付けをしていたら、瑞希が寝室から大切そうに箱を抱えて出て来た。 「桔平、渡しておかなきゃならない物がたくさんあるの。 ちょっと来てくれる?」 「何?」 俺がソファーに座ると、瑞希はニコリと笑って、その箱を開ける。 「私が死んだ後の事… 涼がいなくなった今… 桔平にしか頼めなくなっちゃったから…」 そう言いながら瑞希が開けた箱の中には、瑞希の貯金通帳とマンションの権利書。 そして…お墓の契約書までが入っていた。 「病気が解った時ね、私一番最初にこれ買ったの」 笑いながら言う瑞希が痛々しくて俺は何も言葉が見つけられなかった。 真っ青な海のそばにあるそのお墓のパンフレットを俺に見せて 「なかなか海が見えるお墓っていいでしょ?」 なんて言う瑞希に俺は唇を噛みしめた。 「私が死んだらこのお墓に桔平が入れてくれる? それと入院費はこれで全部まかなえると思うわ。 それと…もし嫌じゃなければこのマンション…桔平がもらってくれないかな…?」 俺はもう限界だった…。 「…やめろよ…」 「桔平、大切な事よ? 最期くらいきちんと桔平に伝えなきゃならない事伝えてから私は死にたいの」 「もういい。 今はそんな話はしたくない。 それに…俺は瑞希がいないこのマンションで暮らす気はない。 お前がいなきゃ意味ねぇんだよ」 言いながらも抑えていた涙が次々と溢れ出す。 …まいったな… 俺、こんな泣き虫だったっけ…? 「お願いだ… 瑞希…絶対死ぬなよ…」 ポタポタと落ちて行く俺の涙を見つめながら瑞希が言った。 「ごめんね…桔平… でも…もう私には時間がないの…」 そんなの解ってるけど… やっぱり認めたくない… 優しく微笑む瑞希は… どうしてこんなに強いんだろう… 自分の死と向き合って生きるなんて…俺には真似出来そうにねぇよ…。   
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