普通の幸せ

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初七日が過ぎてから、俺は優斗の会社に就職した。 もともと体力には自信があったから、肉体労働の土建屋の仕事でもなんとかついて行けた。 49日までは瑞希の部屋は使えるように不動産屋がしてくれてたけど、俺は瑞希のお骨を持って自宅に帰った。 いきなり骨壺を持って帰った俺に驚いた母親だったけど、事情を説明したら温かく受け入れてくれた。 休みの日は、瑞希のマンションの後片付けを優斗と美優が手伝ってくれている。 細かいものは…ほとんど捨てたけど瑞希が使っていたアクセサリーは、美優が貰ってくれた。 「私が瑞希さんの分まで、桔平を愛してくから」 そう言って大切そうに瑞希の遺品を見つめる美優に少しドキっとした。 …やっぱ女ってすごい生き物なんだな…。 大きな家具を搬出してとうとう瑞希のマンションはもぬけの空になってしまった。 空っぽになった部屋をじっと眺めていると、瑞希と出会ってからの毎日を思い浮かべてぼーっとしてしまう。 …瑞希… この部屋で、涼さんに抱かれるお前の姿を見たあの夜から、こんなにもお前を愛するようになるなんてな…。 お前と暮らした短い期間。 俺の人生でほんのわずかな期間だったけど… 人を愛する事の大切さ 人を愛する事の切なさ そして人を愛する事がどれほど幸せな事なのか教えてくれた。 自分の寿命を知ってから、瑞希が最後まで与えてくれた愛情が俺を野良猫の人生から救ってくれた。 …瑞希…       ありがとう… 俺は部屋の玄関で、あの日瑞希がしたように、部屋に向かってそっと頭を下げた。 俺は… これからも前を向いて歩いて行くよ。  
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