冷たい現実

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いつの間にか握った瑞希の手の上に頭を落とし俺は眠っていた。 「…桔平…」 弱々しく呼んだその声にハッと目覚める。 「瑞希!」 俺が呼びかけると、瑞希が酸素マスクの中でニコリと笑った。 「…昨日…ひどい事言ってゴメンね…」 優しく微笑みながら俺の手をきゅっと握る瑞希に俺は涙が溢れ出した。 「何言ってんだよ… 謝るのは俺の方だろ…? 瑞希… 辛い思いさせてゴメンな… 信じてやらなくてゴメンな…」 優しく瑞希の髪を撫でてやると、瑞希も涙を溢れさせる。 「…桔平… 私…もっと桔平と一緒にいたい… …もっと…生きたいよ…」 天井を見上げながら言った瑞希の耳にポタポタと落ちる涙を見て俺はもう何も言えなかった…。 それでも俺はグッと涙を拭いて瑞希の手を両手で包み込んだ。 「まだ…瑞希を逝かせる訳にはいかねぇよ? まだ命の欠片、全部もらってないしな… ちゃんと餌くれねぇと、俺、また野良猫になっちまうぞ」 俺の言葉に瑞希はクスっと笑った。 「…桔平… 私…少しでも桔平と一緒にいる時間伸ばしたいから… 抗癌剤治療受けるね…」 俺はただ黙って頷いた…。 こんなバカな俺でもその抗癌剤治療がどれほど苦しいのかくらい知っている。 それでも… もっと生きたい… そう思ってくれる瑞希が俺は嬉しかった。  
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