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店が閉店してから店内清掃をしていると、瑛梨香が目で俺に合図した。
俺は黙って瑛梨香に続いて控室に入った。
「桔平…
瑞希の具合…どうなの?」
「…抗癌剤治療始めたよ」
「…そう…」
あの夜の妖艶だった瑛梨香の影がすっかりなくなって心配そうに俯いた。
「…それでも桔平は最期まで瑞希のそばにいるのね?」
「そのつもり」
「やっぱ瑞希じゃなきゃダメなの?」
「ああ。
瑛梨香には悪いと思ってる。
だけど俺は瑞希に対しての思いは同情なんかじゃねぇ。
本当にすまなかった…」
俺が頭を下げると、瑛梨香はクスっと笑って言った。
「瑞希を…最期まで幸せにしてあげて。
私はNo.1だから。
男なんていくらでも選び放題よ」
そう言いながらも悲しそうに揺れる瑛梨香の瞳。
本当は…
この女も瑞希と一緒なのかもしれない…
誰も愛せなくて…
だけど一人ぼっちが怖くて…。
俺はもう一度瑛梨香に頭を下げて、控室から出た。
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