『春』部門

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「桜さん?」 大声を出すあたしを三宅先生はジッとみる。 「あたしは野表 桜(のおもて さくら)! あたしはあたしよ!」 あたしは……。 あたしの気持ちがゆらゆら揺らいでいる。 何だか変な気分。 「……ごめん。 傷つけるつもりはなかったんだ。 僕は君を守りたいんだ」 何故三宅先生謝るの? あたしを守りたいって、あたしでいいの? 「また臭い事を……」 素直じゃないなあたし……。 「担任の『桜先生』はいつも僕の傍にいてくれた。 僕が落ち込むときまってここにきて言うんだ」 『いつか信じてればこの桜は咲くはず。 だから夢や希望は捨てちゃだめよ』 三宅先生はそっと桜の木に手を触れる。 「……三宅センセが好きなのはあたしじゃない。 その『桜先生』でしょ。 三宅センセの目にはあたしは映っていない」 そうだよね。 さっきから『桜先生』の話がでるたびにあたしは耳を塞ぎたくなっていた。 初めて感じるこの気持ち。 これは嫉妬? まさかね……。 「桜先生はもういない」 三宅先生はあたしの目をジッとみた。 いないって……まさか。 「え?」 思わずあたしは聞き返す。 「……僕が卒業してすぐに病気で他界した」 三宅先生はあたしに打ち明ける。
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