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目の前の君に問いかける。
「どうして君は生きているんだい?」
「君を幸せにするためだよ」
にっこりと。心からそう思っていることを示す静かなその微笑みはいつも醜く眩しい。
「君は綺麗だね」
「望むのなら醜くも美しくもなるよ」
君は気づいたらいつも一緒にいた。
僕の両親が離婚すれば君は両親を殺し、僕がいじめられれば君は誰からも見えなくなり、僕が病気になれば君は自分の片目を潰して。
いつも僕より不幸だって笑って言うのは僕のためなんだと。
「ねぇ。僕の不幸な話を聞いてくれるかい」
「僕の方が不幸だよ。大丈夫。聞いてあげる」
君はまた笑う。
僕が不細工なのを気にしていた時潰してしまった顔面はなぜこんなにも美しく見えるのか。
「僕は、生きている理由がみつからない」
君は、僕を幸せにするために生きているんだろ?
なんて幸せなんだろう。
こんな僕のためだけれど、生きている理由があって。
「いつも君は斜め上の不幸を見せるけれど、結局は僕が不幸なんだ」
「そんなことないよ」
君はそういうと。
「だって、僕は死ぬんだから。何の過失も、何の原因もなく、突然ね」
そう言うがはやいか君の体には亀裂が入り、鮮やかで美しい赤色が点々と辺りに広がる。
「僕に比べたら君の、どんなに幸せなことか」
それ以来君はどこにもいない。
残ったのはただの不幸で醜い人間だけだった。
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