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僧侶の読経を、僕は目を閉じながら聞いていた。
まだアヤの意識は残っているのに、葬式なんかしたらアヤは完全に死んでしまう。そう思ったが、だからといって、死者をそのまま放置するわけにもいかなかった。
葬式が終わったら、もう1回メールを送ってみよう。
そんなことを考えながら、僕は僧侶の読経に耳を傾けた。ただの漢字の羅列だが、何ともいえぬ快感が僕の耳から全身へと伝わっていき、それが脳の芯に行き渡った瞬間、目頭が熱くなり、今までこらえていた涙が一気に流れ出した。
足の痺れが全身に伝わったかのように、皮膚という皮膚の感覚が無くなり、先ほどまでの快感は一気に不快感へと変わっていった。
「アヤ……アヤーーーっ!」
読経中にも関わらず、思わず声を出して泣いてしまった。
僕なんかより、20年以上一緒にいた家族の方がずっと悲しいはずなのに。
涙をこらえ、黙って読経を聞いていた家族への申し訳なさと、情けない自分への苛立ちで、僕の涙はさらに加速した。
そうこうしているうちに、告別式は終わっていた。
いや、何があったか記憶になかったと言うべきか。
読経を聞きながら声を出して泣いていた、ということと、アヤの家族が読経を聞いていたときの顔以外は記憶になかった。
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