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プルルルル……プルルルル……ピピピっ。
携帯の受話器から電話をしたときに鳴るあの音が、俺の耳に伝わった。
それだけで唇や手が軽く震えた。
「……もしもし?」
そして数秒後、優しそうな男の声が聞こえた。
「……タカシ?」
俺は声が震えたが、出来るだけ姉さんの声に近づけ喋った。
「アヤ?アヤなのか!」
すぐにタカシは反応した。そのとき、電話の向こうから、女性の声が聞こえた。
「佐々木君?昨日の課題……」
佐々木……これが彼の名字か。俺は全神経を耳に集中させた。
「課題ならもう谷先生に提出したよ」
タカシはその声の主の言葉にこう反応していた。間違いない。「佐々木タカシ」これが彼の名前だ。
俺はタカシの名字を知ることが出来た安心感と、バレないかという不安な感情が入り交じり、胃の中に鉛が入っているような感覚に陥った。
その後、どんな話をしたのかは覚えていない。ただ、俺が男だということがバレないように、細心の注意を払っていたのだけは覚えている。
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