――7――

3/5
前へ
/61ページ
次へ
「私は精神科医の神山といいます。」 先生は僕に背を向け、カルテを書き始めた。 「お母様からお話は伺いましたが、まだ恋人が亡くなったことを信じられない、と。」 そしてすぐに僕の方に向き直り、そう言った。 「アヤは死んでなんかいません!」 僕は思わず叫んだ。 「そうですか……。では、3月2日に何が起こったかわかりますか?」 先生は取り乱した僕を見て、落ち着いた様子でそう言った。 「アヤが……事故に遭いました。」 僕はあえて死ぬ、という言葉を使わなかった。いや、使いたくなかった。 「では、その事故以降、あなたはアヤさんに会いましたか?」 先生は、どうやら僕にアヤの死を認めさせたいようだった。だが、僕の携帯にアヤからメールが来ているのは事実。 「会ってはいませんが、メールや電話はしています。」 僕は事実を答えたが、先生は考え込んでいるようだった。 「なるほど……」 それからアヤの死にはふれず、しばらく簡単な雑談をした。
/61ページ

最初のコメントを投稿しよう!

36人が本棚に入れています
本棚に追加