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「私は精神科医の神山といいます。」
先生は僕に背を向け、カルテを書き始めた。
「お母様からお話は伺いましたが、まだ恋人が亡くなったことを信じられない、と。」
そしてすぐに僕の方に向き直り、そう言った。
「アヤは死んでなんかいません!」
僕は思わず叫んだ。
「そうですか……。では、3月2日に何が起こったかわかりますか?」
先生は取り乱した僕を見て、落ち着いた様子でそう言った。
「アヤが……事故に遭いました。」
僕はあえて死ぬ、という言葉を使わなかった。いや、使いたくなかった。
「では、その事故以降、あなたはアヤさんに会いましたか?」
先生は、どうやら僕にアヤの死を認めさせたいようだった。だが、僕の携帯にアヤからメールが来ているのは事実。
「会ってはいませんが、メールや電話はしています。」
僕は事実を答えたが、先生は考え込んでいるようだった。
「なるほど……」
それからアヤの死にはふれず、しばらく簡単な雑談をした。
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