拝啓、とても遥かな甲子園様

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次の日、おかんはバドミントンのシャトルを2ダース買ってきた。 「今日からはこれでトスバッティングします。芯を捉えたら前に飛ぶ」 「えー? この小さな羽根の下を狙うのぉ?」 「よぉ~、溜めてな。ちゃんとシャトル見てたら当たりますで」 振っても振っても、かすっ、かすっと羽根に当たってシャトルはくるくる回るばかり。 「新聞紙かて、最初は当たらんかったやろ――あきらめたらあかん」 泣きそうになっている諒におかんは続けた。 「やる事やらんで、努力もせんと『試合に出られへん』ちゅう泣き言は真っ平や。やって――やるだけやって、それでもでけへんかったら、さっぱりとあきらめが付きますがな」 手のひらはもう擦りむけなくなった。 硬く厚いタコになったから。 ある夜、公園でトスをするおかんと諒を心配そうに、少し離れた正面で見ていた明夫の顔面に。 ――シャトルは見事にヒットして、額に紅く丸い跡を付けた。
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