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小学校最終学年の一年間は「花の六年生」と例えられる。
目白押しの公式戦。地域のデパートが冠に付いた大会。いくつ優勝旗が取れるか。
指導者のコケんにも関わるのだ。
毎週、何らかの大会予選が行われ一喜一憂の土日となる。
おかんは言った。
「諒、ごっついスイングスピードが早よなった。で、や。試合で使ってもらう為には『プレゼン』が必要やねん」
「プレゼンって何?」
「平たく言えば『僕を使ってくれたら素晴らしい結果になりますよ』ていうデモンストレーションや」
「どうすればいいの?」
おかんが得たり顔をした。
「――練習のフリーバッテングから、とにかくバットをぶんぶん振りなさい。当たらなくても宜しい。試合前のアップの時も、全力で素振りしなさい。必ず代打のチャンスが来るから」
「ほんと!」
「ほんまや。指導者のおっさんら、進退極まったら藁にもすがりよるから間違いない」
「……俺、ワラ?」
「お前なぁ、『わらしべ長者』読み聞かせしたやろ? 藁が牛になりますねん」
諒は訳が解らず黙った。おかんは眼に光を湛えて念を押した。
「あのな。ええ悪いは別として。監督の『オキニ』で無い場合は『結果』を積み重ねて行くしかないねん。一発勝負やで。だけどな――それが自分の値打ちにも財産にもなる。これから先に於いても」
諒の代わりに、ルーが「ニャニャ~?」と鳴いた。
「ええか。代打はな、ファーストストライクを絶対降りなはれ。見逃したらあかん。野球は心理戦や。空振りでもええ。スイングで相手ピッチャーをびびらすんや。思いっきり、振り切るんやで」
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