拝啓、とても遥かな甲子園様

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※※※※※※ 『試合に先立ちまして、両チームのスターティングメンバーを発表致します』 アナウンスが球場に響き、一塁側と三塁側の応援席から、どよめきと、そして応援団の太鼓が大きく打ち鳴らされる。 『先攻、埼玉県立吾妻ヶ丘高等学校。1番ショート矢萩(やはぎ)くん。矢萩くん』 アナウンスに合わせてドドドドーッと反響する太鼓の音。 一点の曇りも無い夏の青空が眩しい。 一塁側応援席から大きな拍手と歓声が湧き、[県営大宮球場]のバックボード電光掲示板に、名前が瞬いて表示された。 『2番。セカンド赤野(あかの)くん。赤野くん』 『3番。センター新(あらた)くん。新くん』 お調子者の新が、緊張した顔付きで外野手用の大きなグローブをベンチでしならせた。 『4番。ファースト羽田(はねだ)くん。羽田くん』 羽田 諒(りょう)は目を瞑って、左袖の主将マークを右の掌で握った。 (――やっと。四回戦まで上がって来た) 高校三年生。最後の公式戦。 [第90回全国高校野選手権記念大会] 100校以上の高校が有る県では、南北や東西に分けて2高出場出来る、10年に一度巡ってるチャンス。 7月9日に開会式を終え、熾烈なトーナメントは白熱していた。 南北共、優勝候補の一角が崩れ、先の読めない展開になっている。 それに4回戦からは、もう球場自体の雰囲気が違う。 土日ともなれば、高校野球ファンが朝からバックネット裏を埋めて、高揚した熱気を帯びる。 (とにかく……7回勝たなきゃ甲子園さまには会えないんだ) ベンチ入りメンバー全員でダッグアウト前に並び、主審の掛け声を待った。
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