拝啓、とても遥かな甲子園様

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――1番から9番まで、控えメンバーはレギュラーが打席に入ると歌い続ける。 『ホームランバッター、誰だ! 誰だ! 誰だ! ホームランバッター○○! ○○、○○!』 凡打や三振したら、歌をフェイドアウトするっつう暗黙の決まり。 相手投手が、フォアボールを出した時は手拍子を取りながら、こうだ。 『はーい、ハイハイ、あ・り・が・と・さん! サンキュー!』 ――中学生や高校生の様に、自発的に声掛けが出来ないから、大人が考案、編み出して伝授している。 歌いながら、そっと振り返っておかんを見ると、毎回呆れた顔をしてコーヒーを飲んでいた。 「どうやったら試合に出られるの?」 諒は一縷の望みを繋いで聞いた。 小学生の少年野球チームは、選手の父親がコーチや監督になる事が多い。 すると、どうしても。つうか必然的に。 自分の子どもを何気に監督に売り込む事も。(多々ある) そういう意味でも諒は、野球音痴の父を持ち、大変に立場が微弱だった。 「ええか。欲張ったらあかんねん」 「俺、欲張って無いよ!」 「そういう意味とちゃう」 「?」 「野球には、走攻守。があるやろ。もうすぐ六年生やねんから、意味は解るな?」 「うん!」
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