拝啓、とても遥かな甲子園様

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新聞紙のトスバッティングは毎日続いた。 おかんは明夫と結婚前から、長く務めている会社で未だにフルタイムで働いている。 元々関西が本社の企画制作会社で、マスメディアの仕事を受けて番組や舞台を創る。 おかんはその中で、スケジュール管理やシフト調整をするデスク業務をしていた。 結婚前は一線で現場に入っていたが、諒を授かりバックヤードに部署を移した。 女性が家庭が有り子どもが居る場合、仕事と両立して行くには諦めなければなら無い事柄がいくつもあった。 最低でも18年間は子どもの責任を持ち、地域やPTAの雑務を引き受ける事になる。[働いているから]という理由では逃れられ無い。 まだまだ社会は『働く女性』には厳しいのだ。 『一線は退くけど、わたししかでけへんデスク業務をしてみせます』 明夫は『ママは楽しそうな顔をして言ってたよ』 諒は、高校生になってからそう聞いた。 おかんが帰って来て、夕飯を食べて、夜8時くらいから公園へ行く。 かすかすと、バットにまともに当たらなかった新聞紙が、前にきっちりと飛ぶ様になって来た。 ――いかんせん、ボランティアの集まりで、プロの指導者が居ない少年団では[出来ないな、持って生まれた運動神経が無いな]と踏まれると、チーム内で相手にされなくなり、どんどん置いていかれる。 悪気が有るわけでもない。 ただ試合に勝ちたいのだ。育成より、目の前の良素材のアレンジ勝負と言った所であろう。
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