死界の扉を開けるお祈り

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「ところでAさん、結婚の予定はないんですか?」 「ん?・・・ないよ、彼女もいないしさ(笑)」 「えー本当ですか?もてるでしょ?一人にとどまらず遊びまくるって感じなんすか?」 俺はお世辞も込めてそう言うと、Aさんはしばらくの沈黙のあと神妙な顔で 「実はもの凄く好きな女がいたんだけどさ」 「ふん ふん」 「3年前に死んじゃったんだよね」 「えー!事故かご病気でですか?」 「・・・いや、自殺だよ」 「・・・」 「それ以来、彼女つくる気もしなくてね」 「すみません。変なこと聞いちゃいまして」 「いや、いいんだよ。いつもでも引きずってちゃいけないとは自分でも思ってるんだけどね」 俺はカウンターの並びの席で正面を見据えるAさんの横顔を見つめながら、あのお祈りのことが数年ぶりに記憶に蘇った。 「Aさん、その彼女に会いたいですか」 「は?そりゃあ会えるんだったら今でも会いたいさ・・・何?会わせてくれるの?恐山のいたこか何かか?」 Aさんは怒りの混じったような顔で俺のほうを向いた。 「いや、これ大学のとき友達から聞いた話なんですけど・・・」 俺はAさんに死者と会えるというお祈りの方法を冗談ぽく教えた。 Aさんはその話を聞いて笑いとばすものだろうと思っていた俺は、メモをとりはじめたAさんを見て少し寒気がした。 明けて月曜の朝。 普段どおり定時ぎりぎりに出社した俺を上司達が取り囲んだ。そして物凄い剣幕で俺に聞いてきた。 「おまえAさんと金曜の夜、飲みに行ったんだよな」 「そ、そうですけど、何か?」 「Aさん、死んだよ」 何? 「・・・は?マジですか?」 俺は声を振り絞って聞き返した。 「ああ朝一で○○さん(Aさんの上司)から電話があってさ、自宅で首つって死んだんだと」 「いつですか?」 「土曜の明け方ということらしい。昨日の昼くらいに発見されたらしいが・・・。ところでおまえ金曜は何時にAさんと別れたんだ?」
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