楽しそうな唄

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生臭いのだ。何とも言えない、イヤな匂いがたちこめていた。 また恐怖が頭をもたげてきたが、さっき確かにこちらへ向かう所長を見たし、1階に所長が来てるのは間違いないので、俺は廊下の電気をつけて、階段へ向かった。 診療所の階段は各階に踊り場があって、3階から見下ろすと1階の一番下まで見える構造になっている。 階段の上まで来て、1階を見降ろした。1階はまだ電気がついておらず、俺がつけた3階の電気が1階をうす暗く照らし出している。 生臭さが強くなった。1階の電気のスイッチは裏玄関を入ってすぐのところにある。 所長は、なんで電気をつけない?早く電気をつけて、姿を見せてくれ! さらに生臭くなった時、不意に一階の廊下の奥から音?声?が聞こえてきた。 それは無理やり文字化すれば、「ん゛ん゛~ん゛~~う゛う゛う゛~゛ん゛」という感じで、唄とも、お経とも取れるような声だった。 ここに来て俺は確信した。1階にいるのは、所長じゃない。頭が混乱して、全身から冷たい汗が噴き出してきた。しかし、1階から目が離せない。 生臭さがさらに強まり、「ん゛ん゛~ん゛~」という唄も大きくなってきた。何かが、確実に階段の方へ向ってきている。 見たくない見たくない見たくない!! 頭は必死に逃げろと命令を出しているのに、体がまったく動かない。 ついに、ソイツが姿を現した。身長は2メートル近くありそうで、全身肌色,というか白に近い。 毛がなく、手足が異常に長い、全身の関節を動かしながら,踊るようにゆっくりと動いている。 ソイツは「ん゛~ん゛~~う゛う゛~」と唄いながら階段の下まで来ると、上り始めた。 こっちへ来る!!逃げなきゃいけない!逃げなきゃいけない!と思うが、体が動かない。 ソイツが1階から2階への階段の半分くらいまで来たとき、宿直室に置いてあった俺の携帯が鳴った。
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