5人が本棚に入れています
本棚に追加
生臭いのだ。何とも言えない、イヤな匂いがたちこめていた。
また恐怖が頭をもたげてきたが、さっき確かにこちらへ向かう所長を見たし、1階に所長が来てるのは間違いないので、俺は廊下の電気をつけて、階段へ向かった。
診療所の階段は各階に踊り場があって、3階から見下ろすと1階の一番下まで見える構造になっている。
階段の上まで来て、1階を見降ろした。1階はまだ電気がついておらず、俺がつけた3階の電気が1階をうす暗く照らし出している。
生臭さが強くなった。1階の電気のスイッチは裏玄関を入ってすぐのところにある。
所長は、なんで電気をつけない?早く電気をつけて、姿を見せてくれ!
さらに生臭くなった時、不意に一階の廊下の奥から音?声?が聞こえてきた。
それは無理やり文字化すれば、「ん゛ん゛~ん゛~~う゛う゛う゛~゛ん゛」という感じで、唄とも、お経とも取れるような声だった。
ここに来て俺は確信した。1階にいるのは、所長じゃない。頭が混乱して、全身から冷たい汗が噴き出してきた。しかし、1階から目が離せない。
生臭さがさらに強まり、「ん゛ん゛~ん゛~」という唄も大きくなってきた。何かが、確実に階段の方へ向ってきている。
見たくない見たくない見たくない!!
頭は必死に逃げろと命令を出しているのに、体がまったく動かない。
ついに、ソイツが姿を現した。身長は2メートル近くありそうで、全身肌色,というか白に近い。
毛がなく、手足が異常に長い、全身の関節を動かしながら,踊るようにゆっくりと動いている。
ソイツは「ん゛~ん゛~~う゛う゛~」と唄いながら階段の下まで来ると、上り始めた。
こっちへ来る!!逃げなきゃいけない!逃げなきゃいけない!と思うが、体が動かない。
ソイツが1階から2階への階段の半分くらいまで来たとき、宿直室に置いてあった俺の携帯が鳴った。
最初のコメントを投稿しよう!