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俺は「まずい!!」と思ったが遅かった。ソイツは一瞬動きを止めた後、体中の関節を動かしてぐるんと全身をこちらに向けた。
まともに目が合った。濁った眼玉が目の中で動いているのがわかった。
ソイツは口を大きくゆがませて「ヒェ~~ヒェ~~~」と音を出した。不気味に笑っているように見えた。
次の瞬間,ソイツはこっちを見たまま、すごい勢いで階段を上りはじめた!
俺は弾かれたように動けるようになった。とは言え逃げる場所などない。俺はとにかく宿直室に飛び込んで襖を閉めて、押さえつけた。
しばらくすると階段の方から「ん゛~~ん゛~う゛~」という唄が聞こえてきて、生臭さが強烈になった。
来た!来た!来た!
俺は泣きながら襖を押さえつける。頭がおかしくなりそうだった。
「ん゛~~ん゛~ん゛~~」
もう、襖の向こう側までソイツは来ていた。
「ドンッ!」
襖の上の方に何かがぶつかった。俺は、ソイツのつるつるの頭が襖にぶつかっている様子がありありと頭に浮かんだ。
「ドンッ!」
今度は俺の腰のあたり。ソイツの膝だ。
「ややややめろーーー!!!!」
俺は思い切り叫んだ。泣き叫んだと言ってもいい。
すると、ピタリと衝撃がなくなった。「ん゛~ん゛~」という唄も聞こえなくなった。
俺は腰を落として、襖から目を離すことなく後ずさった。後ろの壁まで後ずさると、俺は壁を頼りに立ち上がった。窓がある。
衝撃がやみ、唄も聞こえなくなったが、俺はソイツが襖の真後ろにいるのを確信していた。生臭さは、先ほどよりもさらに強烈になっているのだ。
俺はソイツが、次の衝撃で襖をぶち破るつもりだということが、なぜかはっきりとわかった。
俺は襖をにらみつけながら、後ろ手で窓を開けた。
「バターーン!!」
襖が破られる音とほぼ同時に俺は窓から身を躍らせた。
窓から下へ落ちる瞬間部屋の方を見ると、俺の目と鼻の先に、ソイツの大きく歪んだ口があった。
気がついたときは、病院だった。俺は両手足を骨折して、頭蓋骨にもひびが入って生死の境をさまよっていたらしい。
家族は大層喜んでくれたが、担当の看護師の態度がおかしいことに俺は気づいた。なんというか、俺を怖がっているように見えた。
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