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No.02
【脳の奇形児】
感傷に浸りながら、羽がボロボロの鳥の行方を見つめた。
あそこの川ではぶでぶと太り人間で言うメタボであろう猫が溺れてる。世間一般で言う可愛さは前者も後者も持ち合わせていなかった。
例えば、愛した人に抱き締められるのではなく、首を絞めて貰いたい。そして私がその息苦しさから助けを求め哀願したとしても、そんな言葉にさえ耳を傾けずに、私が苦痛に歪む表情を見て冷たく笑って欲しい。
――バタッ…
突然、その鳥は力なく地べたに落ちた。ボロボロの羽で飛べる距離なんてたかが知れてた。
「…うわっ、きたねぇっ!」
「ほんとだ、何コイツ?」
「もう死んでんじゃねぇの?」
指が6本の奇形児は嫌われる。体と心の性が不一致でも避けられる。そんな狭い世界の中で、今この男たちが発した言葉は決して間違ってるわけじゃなかった。私はそれが悲しかった。
「あの川で何か浮いてない?」
「あ、デブ猫が溺れてる」
「助けてあげなよー?」
「いや、濡れたくねぇし、
てか太るのが悪いじゃん?」
「確かに自業自得かもー。
ね、このあとどうするー?」
ジレンマと周囲の理解が足りない状況が揃ったとき、どれだけの絶望を抱かなければならないのだろうか。
だけど、生まれ持ったものが変えがたいものだったと気付いたとき、私には理解できないほどの重くどろりとした何かが目の前を塞ぐのではないだろうかと。
――何その趣味?
気持ち悪いんだけど
――うわ、痛そう
流石にやりすぎだよ
――アイツきもくない?
染色体がちょっと違えば元通りなのに、一本、鉛筆で線をひくくらい容易いのに。
そんな話はとりとめもなかった。
答えも夜明けも見付からない。
1ダース纏め売りの安物では、美しい線など初めから描けるはずもなかったんだ。
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