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『夜は不気味だけれど…お外の世界はこんなにも素敵なのね!抜け出してきて正解だったわ!』
杏がどうして城を抜け出したかというと、
それは二日前にさかのぼる。
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『お兄さま。おはようございます。』
「やあ、杏。早いじゃないか。」
お兄さまと呼ばれた少年は杏とは違い、
深海の青を思わせる瞳をこちらに向け、微笑んだ。
この少年は零。
リッカッチェの王子様である。
杏の実の兄で、青色の髪を一つに結っている。
種族は魔人。
なぜ杏が人間なのかはいまだにわからない。
ステンドグラスの窓付近にある金色の装飾を施した椅子に腰掛ける彼は、
その美しさと時折見せる残酷さから、別名、『漆黒の天使』とよばれている。
『ええ。めが覚めてしまいましたの。』
ところでお兄さま、と杏はおずおずと
話を持ちかけた。
『今日はリッカッチェの創立収穫祭なのでしょう?』
「・・・それがどうかしたのかい?」
微笑んだ顔が、少しだけ動いた。
杏は気にせず、話を進める。
『わ、私も国の姫です。なので外に連れていってもらえたらと───』
零「駄目だ。」
杏の言葉が言い終わらないうちに、
零は却下の言葉を発した。
先程のような柔らかい笑みはどこにもない。
『何故。』
「なんでもだ。外は危険が多いんだ。危ないんだよ。」
外は危険。
零や城の皆は全員杏にそういっていた。
それが、姫にとって一番安全だから。
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