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「さてはて、誰なんだろうね」
「大丈夫? 酔ってるんじゃ……」
「そうかもね。変なこと訊いてごめん」
加賀谷は心配そうに俺を眺めている。平気だと一言告げると、一度トイレに向かった。ちょうどカウンター席と座敷席の中間にある、奥へと伸びる通路に入る。
その際、確かに坂井がこちらを見ていた。赤井の方は確かめていないが、菊池達の話通りなら、きっと見られていることだろう。
トイレの前にあるお手洗いに立ち、鏡に映る自分に一度、溜め息を吐いた。なんとも居心地の悪い空間になってしまったものだ。
酒が入って騒いでいるおかげで、まだ赤井達は探られていることには勘付いていないようだけど。
あの人が誰か知る赤井達に直接訊いたほうが確実に事態は動くけど、わざわざ誰か隠しているんだ。事態が進展すれば、どうなるかは予想がつかない。
素直に白状するなら、最初からこんなことはしないだろうし。
「あれえ、優輝君だっけ? だよね? どうしたのお? 酔って気分でも悪いの?」
声からして長谷川だ。苦手な相手だな。でも情報を聞き出すには、いいタイミングかもしれない。
振り向くと、冬だというのに露出の激しい服装で、胸元が開いた服の長谷川が紅潮した頬で俺を眺めていた。目のやり場に困る。
「あまりこういう場所には来た事無くてね」
「雰囲気で酔っちゃたんだ。可愛いねえ。でも、平気? 無理しないでね」
軽い口調の中で、心配してくれた部分だけは言葉に軽さがなかった。
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